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21世紀の経営管理課題・ビジネスモデルマネージメント
日本プラントメンテナンス協会会誌「Plant Engineer 2001年1月号」への寄稿
1 20世紀とは人類にとって何であったのか
思い起こせば、20世紀初頭インダストリアル・エンジニアリング(IE)の申し子、フォード・T型モデルが、自動車産業を起動して自動車時代の幕を開いた。そして、ライト兄弟は、デイトン・オハイオで初めて空を飛んだ。20世紀中盤には、コンピュータが発明され、原子力を実用化し、宇宙旅行を実現した。そして、その終盤には、複合情報通信技術(IT)による、軍事技術のデジタル化、経済のデジタル化、バイオをはじめとする科学技術のデジタル化によって、生命工学や医学が想像を絶する進歩をした。
たしかに20世紀の科学技術は、人類の夢を1つづつ実現した時代であった。しかし、その光は環境破壊という影をつくり、厖大な人類の負債を21世紀に残した。
一方、ロシア革命によるコミュニズム国家の80年に及ぶ壮大な実験は、問題だらけの自由競争社会の優位を実証する結果となった。
とくに20世紀後半、米国は科学技術と軍事力と経済力において世界を支配し、そのまま21世紀に突入することになる。その根底にある戦略は、覇権を維持するために、すべての分野におけるIT活用とデジタル化の先導にあるといっていい。このような世界の構図は、21世紀に向かって、20世紀の技術がもたらした影の問題解決を迫っていると見ることができる。これが、よく言われる持続循環型社会への転換技術であり、21世紀の経済社会や企業経営の根幹技術になると思われる。
このような20世紀を背景として、新製品競争と技術革新もまたIT化を軸に、製品の本来の耐用年数の数分の1、数10分の1の速さで陳腐化してしまう耐久消費財を、消費者に抱かせながら、革新のスピードを増すことになるだろう。皮肉にも、本来のCALSやMRO(Maintenance,Repair,Operation)によって文明資産の経済効率が向上しつつあるのに、耐用年数を無視した新製品の供給を制御できないままで21世紀を迎えることになるのだ。
2 21世紀ビジネステクノロジーの課題
1990年代に入ってビジネス・マネジメント革新の主流はIT主導であり、ERPシステムの推進であった。しかし、日本におけるERPパッケージの導入は決してうまくいっていない。それは日本固有の生産管理方式や流通システムが、欧米型ビジネス・コモンプラクティスと根本的に異なるためである。たしかにグローバリゼーションといわれても、ドメスティックシステムがついていけないでは、和洋折衷パッケージがどうしても必要になる。しかし、今までのところ用意されていない。
そのような基幹情報システムの統合の遅れは、SCMパッケージ導入の遅れにつながり、eビジネスパッケージの導入についてもむずかしい状況だ。ネットビジネス化を中心としたビジネスモデル特許時代への対応にも遅れをとることになり、その差は10年という人も少なくない。
ここで、ビジネスモデルという呼び名は、「儲かるビジネスの仕組み」の意味で用いられている。決してビジネス全体のモデルでもなければ、ビジネスプロセスモデル全体をさしているわけでもない(図表―1)。
[図表−1.ビジネスモデルの構図]

このように、IT化を主流としたビジネステクノロジーの課題は、ますます部分プロセステクノロジーにフォーカスしていく傾向にある。この部分変革によるアンバランスの発生を監視し、そのときそのときのトータルビジネスモデルの現状(as
is)と仮説的な最適ビジョン(to be)のマッピングが不可欠な技術課題として浮上してくるであろう。
それに加えて、この10年のビジネステクノロジーの変遷に見られるように、次から次ぎへと出現するIT化による経営機能やプロセス変革のスピードは、年を経るごとに速くなっている。少なくとも1990年ころまでは、会社の伝統的な仕組みやビジネスカルチャーは、時間をかけて淘汰され磨かれて、優れた企業運営の仕組みとして温存された無形不動産と考えられていた。しかし、ビジネスそのもののIT化の進行とともに、経営スタイルを表現するためにビジネスモデルという言葉が使われるようになった。それは、伝統や遺産文化を指すものではなく、耐久消費材のように取り替えられるビジネスの方式であり、できるだけスピーディーに衣替え(リプレース)するものとの認識に立っている。
たとえば、今日のビジネスモデリングの環境がeビジネス(サイバービジネス化)を軸に、SCMとeマーケットプレースの共存という垂直統合と水平分散市場の2軸の展開が進んでいる。そこに、サイバービジネスとリアルビジネスの融合が迫られている現実からも、納得できることであろう。
とはいえ、ビジネステクノロジーの最大の課題が新しいビジネステクノロジーそのものだけでなく、その進化スピードを克服する技術にあると考えられ始めたのは、せいぜいこの数年であり、まだ解決している段階にはない。
ところで、この衣替えは店鋪の模様替えのようには行えない。それは、そのほとんどが従業員1人ひとりの行動を自己変換するスキルに依存しているためである。日本企業のネックは終身雇用制のために生じる。「新しい酒は新しい皮袋に」という諺があるが、米国流の適材リクルート方式とこれに慣れた人材でなければ、スピーディーなビジネスの衣替えにはついていけない。トレーニングだけでは、適材の入れ替えや再編に勝つことはむずかしいのである。
その意味で、漸次、終身雇用制は衰退し、中途採用型人材補給方式に転換していくことは、21世紀雇用方式の必然的方向であり、21世紀のビジネステクノロジーの第3の課題である。
ここまでのビジネステクノロジーの3つの課題を、21世紀のビジネステクノロジーの基本課題として提起しておきたい。
(1)トータルビジネスプロセスマッピング
(2)ビジネスモデルの急速転換
(3)ニューモデル適材編成
3 ビジネスモデルの運命
ビジネスモデルにライフサイクルが存在すると考えるとき、ビジネスモデルの陳腐化の引き金となっているビジネス挙動の力学について理解する必要がある。
それは3つのバランス撹乱要因の存在である。
その第1は、「2重らせんの法則」と呼ばれる。産業構造が、社内一貫調達・供給型のいわゆる垂直・統合構造になっていれば、らせんがほぐれる作用は、製品・部品モジュール企業型へ、いわゆる産業構造の水平分散・モジュール化を進める方向に働く。その一方で、産業構造が水平型になると、垂直・統合型へ押し戻そうとする方向に働く。これが、2重らせん構造の力学である。かつて、フォードは鉄鋼業まで自社のプロセスに統合していた。今日、ダイムラー・クライスラーに端を発した、モジューラ組立て型の水平分散・モジュール化が、ビッグ3やトヨタにも波及している。また、かつてのIBMなどの垂直統合型の汎用コンピュータメーカーの出現によって水平分散・モジュール型の経営モデルに変わった。しかし、マイクロソフト社は、水平分散によって勝ち得た地位を独占化することによって、垂直統合を果たした。次に水平分散の時代が来るのは明らかである。
[図表−2.産業・製品の二重螺旋構造]

第2は、「クロックスピード加速の法則」である。具体的には、工作機械などの源流工程にある製造業の製品やビジネスモデルの寿命は長く、耐久消費材や生活消費材などの下流工程の製品寿命やビジネスモデルの寿命は短い。
第3は、「変動拡大の法則」である。たとえば、源流工程の需要変動は下流工程の需要変動に比べて極めて大きい。
すなわち、生活消費材はトータル需要は安定しているが、製品個別の寿命やビジネスモデルの寿命は短い。源流工程の企業は、ビジネスモデルは安定していても「2重らせんの法則」にさらされ、需給変動のダブルパンチを受けるため、ビジネスモデル運用のスイッチを切り替える必要が出て来るといえる。
これらのビジネスモデルの撹乱要因とビジネステクノロジーの進化のスピード化を克服し、常にバランス性能のいいビジネスモデルをメンテナンスし改造するには、ビジネスモデリングの下敷きとなる、ビジネスモデルフレームワークの存在が必要不可欠となる。
4 ビジネスモデル・フレームワーク「PDR」
ビジネスモデルの枠組みの一例として、日本で開発されたPDR(Process Design
Repository:ビジネスプロセス設計データベース)が提唱するビジネスモデルの構造を見る(図表―3)。
[図表.3−PDRビジネスプロセスモデルとマクロ業務体系]

図は、PDRのマクロ業務機能体系を表したものである。
マクロ・ブロック24個が第4階層のプロセス・エレメントに分解されると、その数は10000個を超える。
ビジネス活動のサイクルは、大別して4種類が存在する。第1は伝統的な経営管理サイクル(PSCサイクル=タテの管理サイクル)、第2はプロダクト・サプライチェーンサイクル(Dサイクル=ヨコの管理サイクル)、第3はリソース・サプライチェーンサイクル(Aサイクル=ヨコの管理サイクル)、そして第4はリソース支援機能のPSCサイクルである。これら4つのサイクル活動機能と性能の競争優位を企画設計することを、BPE(ビジネスプロセスエンジニアリング)という。
現時点では、プロダクトサプライチェーンモデルの競争時代である。そのための縁の下の力持ちがBPEである。その意味で、BPEのみならず、今後リソース・サプライチェーンモデルの競争時代に入っていき、そのアウトソーシングビジネスの成長が促進されていくことになろう。
PDRモデルは、自己改造機能を内包する自己完結・再生型のビジネスモデルである。その基本構造が図表−2のA04に位置するビジネスプロセスエンジニアリング機能とそのプロセス群として組み込まれている。現在PDRモデルは10業種について開発されている。今後のビジネスモデルの心臓部には、自己改造機能を持ったBPEプロセスの組込みが必要不可欠となり、その運用こそ21世紀ビジネステクノロジーのソリューション課題であるとして、PDRモデルは設計されている。
5 ビジネスモデルエンジニアリングの進化シナリオ
現在、ビジネスモデルエンジニアリングのリポジトリ(入れ物・データベース)としてもっとも進んでいるのは、ドイツIDSシャー社のARISである。このリポジトリに日本のPDRのデータベースを移植し、SCC(サプライチェーン・カウンシル)が提唱するSCORメソドロジー(米国)に従って、PDRモデルによってビジネスプロセスエレメントレベルまで分解し、そのプロセスエレメントのI/Oとプロセスロジックを設計する。そして、ARISのEPC(Event
Driven Process Chain)チャートによってワークフロー化し、実装モデルを設計する試みはすでに始められている。
すなわち、21世紀に入るやいなや日米欧のビジネスモデリング手法のインテグレーションによって、すみやかにビジネスプロセスモデルを設計しマッピングすることが可能になって、設計実装されたto beモデルは、その構築完了時にto beモデルからas isモデルにステイタスポジションを変えることになる。そして、これらのモデルが蓄積されて、ビジネスモデルマネジメントが可能となる日もそう遠くはあるまい。こうしてビジネスモデルMROのアウトソーシングビジネスが花開く日も近いといえる。
しかし、最後まで残るのは、新ビジネスモデルへの転換に必要な人材の適応や人材編成の問題であろう。
6.ビジネスモデリング業界の再編シナリオ
20世紀の最後を飾ったERPパッケージのベンダーや導入コンサルティングサービスを請け負ったSI社は、その垂直統合型ビジネスモデルから水平分散・共通モジュール構造のパッケージ転換が進み、その多くは淘汰されるであろう。そこにビジネスコンポーネントパッケージベンダーへの転換が進み、新たなコンポーネントベンダーも登場することになろう。
一方で、IBMやプライスウオータハウスやアンダーセンのような、ビジネスモデルの企画設計からモデルの構築・運用まで一貫アウトソーシングを受けるスーパービルダーが登場することになろう。そうした企業は、ビジネスモデリング大学や研究所を経営することになると思われる。その中で、SAPやオラクルなどの巨大ERPベンダーの住み分けが注目される。
一方では、優れたビジネスモデルコンサルティングファームが、今日の建築設計事務所のように業種や業界や複合モデルなどの得意分野にフォーカスして登場する日も近いと思われる。
一般企業のビジネスプロセスエンジニアリングスタッフは、これらとどう付き合い、何をアウトソーシングし何を内製するかが課題となる。企業トップのビジネスモデリング戦略が極めて重要になると思われる。これはCIO(Chief Information Officer:最高情報システム執行役員)の仕事ではない。やはりCEO(Chief Execution Officer:最高執行役員、経営トップ)のミッションと考えるべきである。これをミッションと考えたとき、21世紀のCEO資質はビジネスとITと人心統率力の3拍子揃った指導者であることが必須条件となり、今日の日本企業のトップの大半は脱落せざるを得ないであろう。
まさに21世紀は、新しい人材の時代であると思う。(了)