ザ・結合
財務管理とサプライチェーンマネジメント*
責任の重い経営者、すなわち経営幹部と財務担当役員達は、サプライチェーン・マネジメントに新しい光を当てて、単なる運用コスト削減の技術としてではなく、財務成績向上のためのキー・ドライバーの強力な実現策(enabler)として捉えなくてはならない。そしてサプライチェーン経営課題が戦略企画室から役員会議室の主要議題に移動が完了するのは、唯一、財務とサプライチェーンの結合がなされる時である。
By Stephen G. Timme and
Christine Williams-Timme
Co-founders of
FinListics Solutions
(ステファン・G・ティム、クリスティン・ウィリアムス−ティム
フィンリスティック ソリューションズ創設者)
翻訳 梅澤伊憲(褐o営資源システム研究所)
*本論は、”SUPPLY CHAIN MANAGEMENT
REVIEW”誌2000年5/6月号掲載の“The FINANCIAL-SCM CONNECTION”の日本語訳であり、”SCMリサーチ・レビュー誌2001年冬号(第9号)”に掲載したものである。標記の如く、SCM活動が企業財務評価にどのようなインパクトを与えるかを関連付けようとする試みである。企業財務の全体評価を「経済利益(economic
profit=EVAと同義)」と呼び、資本回転に当たる投資1ドル当たりの正味収益を「SPEED」と表現するなど、独自性の高い記述である。また、指標の計算根拠や肝心のSCMソリューションの持つ財務インパクトの評価(マッピング)方法には具体的な解説は無い。これらは「企業秘密」という事になるのであろう。しかし、総じて分かり易くサプライチェーン・マネジメントと財務評価の関連について解説しており、「システム推進」側の陥りやすい「コスト削減の視点からの評価」から「企業財務運営視点の評価」への展開を示唆している好著と考え訳出紹介する事にした[This
article is copyrighted by Cahners Business Information。左記の注記を以って執筆者の引用を許諾を得ている:梅澤注]。
ただし、図表はMac仕様のデータしかなく今回一挙掲載ができなかった。
今日のビジネスチャレンジ成果の最大の特徴は、投資家に対する優位なリターンの提供である。多くの企業にとって、ホーム・デポ、ゼネラル・エレクトリック、シスコシステムズや(少なくと今の所)高値のドットコム企業等のような高収益企業に対する、顧客をめぐる直接の競争では勝ち目は無いのかもしれない。
しかし、すべての企業は財務市場では互いに競争しており、投資家に対して優位な利益を提供できている会社は成功して成長する傾向にある。財務力の無い企業は、成長力は制限され、多くの場合存続も危うくなる。
企業がより高い収益を提供することは、高まる顧客の(製品、価格、サービスに対する)要求や、激しくなる競合、絶え間無く進展する技術等のために一層複雑になってきている。“Cレベル”のマネージャー(CEO、CFO、など)は、この挑戦に立ち向かう新しい解決策を求めている。そして、サプライチェーン・マネジメント(SCM)がこれらの解決策を提供する可能性を持っている---そのため、SCMを“戦略企画室のスタッフマターから役員会議室の経営マターに”との動きがある。しかし多くの企業においては、少なくとも2つの要因がSCMの役員会議室へのデビューを妨げている。
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まず、多くの上席経営者はサプライチェーン・マネジメントを伝統的な見方で捉えていて、すべての財務成績領域(成長、収益性と資本回転等)にSCMが影響する可能性を充分に認識していないことである。そして不幸なことに伝統的な見方では、全体的な財務成績でただ1つSCMが与える結果だけがかろうじて定義されている---運用コストである。
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第二に、多くのSCMの専門家は“財務用語”を使わない。それで彼らは経営トップに対して、解決策の本当の価値を明瞭には表現し損ねるのである。
この論文では、サプライチェーンの問題解決策が企業の全体的な財務成績(financial performance)を改善するのに役立つ方法を例証して、財務とSCMの結合を試みる。この試行は、CFO(Chief
Financial Officer:最高財務担当役員)が職場をまたがる業績改善活動上のキーマンであると仮定して、そのCFOの見地から行われる。論文は最初に、企業が投資家に優位なリターンを提供しなくてはならない理由を調べ、財務成績をドライブするキーファクターを挙げ、CFOがどう考えるかを説明する。次に、サプライチェーンのソリューション(解決策)が全体の財務成績にどう影響するかを、CFOに示すための効果的な指標(metric)を用いて提案する。
競争優位のリターンとCFOの見地
企業は、ビジネスを持続して将来の成長に備えるのに必要な資金を調達するために、金融市場に競争優位性のある収益(return)を提示しなくてはならない。上場企業にとっては、競争優位としての利益は“総株主利益”(配当と株に対して支払った価格と現在価格のパーセンテージとして測られる含み益)によって測定される。
競争優位の利益を提供することは、近年の主要な株式指標がそれらの長い歴史を持った実績に比べて最高値圏(stratospheric)の利益を示すにつれて、より挑戦的になってきた。例えば、S&P500(スタンダード・アンド・プアーズ500の株価指標)に見る平均の年間総株主利益は過去5年間で、驚くべきことに27パーセントに達している。これは10から12パーセントの平均年間利益に匹敵する。S&P500の企業平均と比べて同じリスクを持つ企業は、競争優位性のある利益を提供するためには少なくとも27パーセントの利益を必要とすることになる。あなたの会社は、どのようにしてこの上位企業のレベル(benchmark)をクリアするのだろうか?
短期間に、何が会社の株価を左右するかは常に明確であるというわけではない。投資家の感情的なものも影響していると推測する人達もいるし、他方、年度成果主義(annual spirits)のせいであると主張する人達もいる。しかし長期的に見ると、株価は、3つのキーファクターに関係する会社運営の財務成績に連動する傾向がある:
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成長(Growth)---年々の収益の成長スピード
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収益性(Profitability)---運営費用(調達、製造、輸送、配送など)を差し引いた後の収益の大きさ。営業利益(operating
profit margin)と呼ばれる
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資本回転(Capital Utilization)---それぞれの資本(例えば、在庫と売掛金、倉庫、フリート、生産設備と装置)に投資された資金が生み出す収益。我々は資本回転を“スピード”で表現することを好む---企業間比較で最も高い平均スピードを出している企業は常に競争に勝っている
財務成績を向上させ投資者への優位なリターンの提供を確実にするのは、最高財務担当役員(CFO)の仕事である。彼あるいは彼女は、この利益を提供する解決策の全体的な展望を示さねばならない。CFOは、いつも次のような質問への新しい答えを捜している:
■既存のビジネスの利益は、どうしたら改善できるか?
■我々はどのような新しいビジネスに参入すべきか、その利益は何か?
■何処で、ビジネスを運営し成長のための資金を得るか?
■どうしたら投資家の期待を満足させられるか?
サプライチェーンの専門家がSCM課題を企画室マターから役員会マターに持ち上げようとするなら、彼らが提示する解決策が、どのようにこれらの質問に対する答えを提供できるかを示さなくてはならない。朗報は、多くのSCM解決策は、キー・パフォーマンス・ドライバーの成果が、そのままこれらの質問への答えになっているということだ。考慮点は、解決策が往々にして“より低い運用コスト”の見地からだけ提出されるということで、それはパフォーマンス・ドライバーの一部でしかない。また、収益性要素へのインパクトや成長と資本回転への影響はしばしば数量化されない。結果として:CFOは、その解決策の全体的な財務成績に及ぼす潜在的な可能性について、不完全な考察を余儀なくされるのである。
図表1は、財務成績の3つのドライバーにSCMが持ち得る影響を例証して、CFOの主要な質問への答えを考察する。(出典はすべてフィンリスティック・ソリューションズ社のプレゼン資料である)。分析はS&P企業平均に基づく。それは、収入を増やし、部門運営経費を減らし、在庫回転を増やし、日々の売掛金を減らし、そして固定資産の活用度を上げるという、SCMソリューションの株価への影響を示している。図表はSCM解決策が際立って株価を押し上げる可能性を持っている事を示す---すなわち、これがサプライチェーンの専門家が役員会に送らなくてはならないメッセージである。
[図表1 SCMが株価に与える潜在的なインパクト]
SCMの財務成績全体への影響
経済利益(economic profit)は、SCM解決策が全体的な財務成績に与える影響を測る有用な指標(metrics)である。経済利益は、多くの異なった名前で表現される。最も人気が高いもののひとつ、経済的付加価値(EVA)がスターン・スチュワート社によって開発された。経済利益を使うメリットは、成長、収益性、資本回転という主要なパフォーマンス・ドライバーから、容易にSCM解決策の影響を貨幣価値に換算できることにある。
経済利益は、企業の収入からビジネスに要する総コスト(運用コスト、税金等)を差し引いた正味の利益と、投資家に対するリターンの根拠を示している。経済利益について考える簡易な比喩が、図表2で示したような、あるレベルの給料とボーナスを基にしたあなたの個人的な正味財産計算との対比である。
[図表2 個人と企業財務の対比]
ここでは、給料とボーナスを企業収益と見なしている。衣料や共益費のような非財政的(nonfinancial)生活費が企業の運営費にあたるが、残念な事に税金は税金として計上せざるを得ない。給料とボーナスから非財政的生活費と税金を引けば、“税引き後利益(NOPAT:net
operating profit after tax)”が算出できる。しかし、最も重要な個人的な金融支出の1つ---ローン支払(あるいは、会計上は支払い利息だけ)あるいは賃貸料支払いや他の資金調達コスト---が、あなたの正味財産の変化を把握するために控除されなくてはならない。もしこの変化の長期傾向が積極的ならば、あなたは出世していくだろう。もしそれが否定的ならばあなたは遅れをとっており、倒産を来たさぬように個人的な財政を変えねばならない。
財務用語の経済利益は、“資本負担(capital charge)”を下回る税引き後正味営業利益である。資本負担は、資本×資本コストで算定される。資本は、受掛金、在庫、機械、プラント、建物のような資産に投資される正味の簿価である。資本コストは、借入金金利と、配当金と株価に対する株主の期待のミックスである。
経済利益は、所定の収益レベルに対する株主価値の変化を示す。これは、あなたの正味個人財産の変化の算定と類似している。もし経済利益の長期の傾向が積極的ならば株主価値が生み出されている。これは、企業が資本コストを上回る利益を獲得していることを意味する。もしそれが否定的なら、資本コスト以下の収入しか得ていないのだから、株主価値は失われる。株主は、彼らの資金を他に投資する方が良いと判断するだろう。もし経済利益が慢性的に悪ければ、(あなたの個人的な財政と同じように)改善するために財政を変革しなくてはならない。
図表3に、S&P業界の平均的な企業の経済利益を示す。
[図表3 S&P企業平均の経済利益]
これを見ると、企業平均で前年の数字から7パーセント収入を増やして、収入1ドル当たり0.11ドル(税引後0.07ドル)の収益性を記録し、資本回転率(あるいはSPEED)は1.43ドルだったことを示している。同様に、経済利益は9.6パーセントの資本コストに基づく資本○○を差し引いても殆ど影響が無いと分析できる。これは平均的に、各社が非常に競争優位性のある製品とサービス市場で営業していて、同じ原材料や部品、労働力に(効果的な)競合状態でアクセスし、そして効率的な資本市場で資金を得ることが可能であることを示している。更に、平均企業の実際目標上の経済利益がゼロであるという事実は、なぜCFO達が常に財務成績を改善すべく新しい解決策を求めているかを強調している。次に我々は、金融とSCM結合を更に良く理解するための基礎となる、サプライチェーン・マネジメントと経済利益の間の繋がりを見てみよう。
3つの財務ドライバー
CFOレベルではサプライチェーンのソリューションは、成長性、収益性、資本回転---財務ドライバー---の増大に影響を与える限りにおいて重要なのである。次の項では、SCMがこれらのドライバーに影響を与え、経済利益上の結果にどのように影響を与えるかを例示する。これらの例では、S&P工業での企業実績平均がベースケースとして用いられる。
成長性
S&P工業の平均企業は、前年のレベルに7パーセント収入を増やしている。収益成長性に対するSCMの影響はさまざまであって、下記のように、既存のビジネスと新しいビジネスの期日での両方が影響していると考えられる:
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既存ビジネス |
新規ビジネス |
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SCM |
・在庫ロスの削減 |
・市場対応スピード |
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成長 |
・注文の完遂 |
・資本活用 |
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実現策 |
・顧客サービス |
・コスト管理 |
既存ビジネスの成長のための解決策は、既存の製品およびサービスの収益性を増大させることを取り扱う。SCM解決策(enablers)の適用が、収入を増やすことにもたらす影響は重要である。例えば、予測レベルを上げて在庫ロスを削減する結果をもたらす あるSCM解決策が、S&P工業平均企業に1パーセントの収入増をもたらすとしよう。図表4に、変動費の異なるレベル毎に想定される経済利益上の影響を示す。例では、日々の正味運転資本(売掛金+在庫
−買掛金)はS&P工業平均企業と同程度で推移すると仮定する。
[図表4 収入増による経済利益改善]
図表4が、1パーセントの収入増の結果得られる経済利益の実質的な改善額を示している。(製品あるいはサービスのディーラーに近い)100パーセントの変動費モデルでは、経済利益改善は240万ドルあるいは17パーセントである。(変動費としての原材料と直接労務費を持っており、高い工場間接費、販売費、一般管理費の製造業者に近い)50パーセントの変動費モデルでは、経済利益改善は1千6百万ドルあるいは100パーセント以上である。
SCMは改善された「マーケットへのスピード」即ちSPEEDとコストマネジメントを通して、企業が新しいビジネスに参入するのを手助けする解決策を提供する。いかにSCMが新しい市場への参入に対して競争優位な利点を提供できるかの例が、この論文の後半で追求される。
収益性
収益性は、すべての運営経費を支払った後に残る収入1ドル当たりの残高である。先に図表3で、S&P工業の平均企業が税引き後に税金と0.07ドル、即ち税引き前収益性で0.11ドルをあげていたことを示した。典型的なSCM 解決策のもたらす利益は、関連するサプライチェーン運営経費の削減を通して収益性にインパクトがあると考えられてきた。(輸送、保管、荷役、管理のような)ロジスティクス関連経費が、平均企業の収入のおよそ8パーセントであると推定される。(これは、ハーバート・W・デイビス社が調査して1999年のロジスティクス・マネジメント大会の評議会でプレゼンした数字である)
多くのベンチマーキング研究活動が、SCM運用経費を左右する多くのKPI(Key Performance Indicators)を調べてきた。これらの研究は、運用経費にサプライチェーン解決策が持つインパクトに対して洞察を加える。しかしながら、CFOの見地は最終の帳尻(bottom
line)でのインパクトであり、それは経済利益である。図表5は、SCM運営経費の5パーセントの削減が経済利益に与えるインパクトを示している。これらの経費は、収入の8パーセントと見積もられている。
[図表5 SCMのコスト削減ソリューション例]
結果は、S&P工業の平均企業で、5パーセントの削減が経済利益をほぼ2倍にすることを示している。市場価値(market value)の増加は4億5000万ドルを超え、それは市場価値全体の6.5パーセントの増加をもたらした。4億5000万ドルは、見方を変えれば、もう1つの会社を買う資金をCFOに提供するという事であり---あるいは、そのCFOの会社の買収価格をいっそう吊り上げるという事だ。いずれかの方法で、当初のコスト削減だけの観点から財務成績全体をカバーする観点に広げられるべきである。
資本回転---SPEEDの必要性
資本回転またはSPEEDは、投資家に競争優位性のあるリターンを提供できるかどうかのキーファクター(key driver)である。SPEEDは、企業が如何に効率的に資本を活用しているかを示してる。それは、投資された資本1ドル当たりが生み出した収入(ドル)で測定する。例えば、デル(コンピュータ)のSPEEDは7.45ドルである。これは、7.45ドルの収入がすべての資本投資1ドルに対して生み出されることを意味している。企業のSPEEDは、その企業が何をするかを反映している。例えば、クルーガー(Kroger)のような食料雑貨店は、生み出す収入に対して多額の資本投資を必要としないので8.00ドルのSPEEDを持っている。ワールプール(Whirlpool)は製造業であり食料雑貨店よりは資本集中的(capital
intensive)なので、そのSPEEDは1.80ドルである。ベルサウス(BellSouth)のような極度に資本集中的な遠距離通信会社の場合は、SPEEDは0.70ドルである。
SPEEDは、レーシングカーがコースを一周して記録する平均時速マイル数であると考えると良い。より高SPEEDの車は、フィールドの前方からスタートする。最も早い平均のスピードの車がレースを制する。すべてのビジネスの事業性は現金の効率的な動きで表される。ある企業は、生産し、配送し、あるいは新しい製品を生み出すかもしれないが、その本当の事業性は現金の生成と再投資なのである。現金がより速く生成されるとビジネスは速く成長し、その財務成績と、究極的には株主へのリターンがより高くなる。
資本回転は、SCMソリューションが財務成績全体の改善に最も大きな可能性を持っている領域である。一般に企業のマネージャー達は、収益性要因(例えば、輸送および倉庫経費予算)の結果だけに固執し、資本には関連しないと考えている。収益性に関連する評価基準(measures)は、重要であっても不完全なのである。
多くのサプライチェーンに関わる決定が、資本と運営経費支出の間のトレードオフを巻き起こす。例えば、在庫水準は一般に輸送手段を高度化(upgrading)することによって下げることができる。しかし、この高度化は典型的な輸送経費の増加をもたらす。輸送経費支出で成績を評価されるマネージャーは、在庫削減のためにせよ、さらに多くの輸送経費を使うことを嫌らう。
マネージャーの注意を収益性の評価だけに集中することは、資本回転に対する責任はどこか別のグループのものであるという固定観念を作ってしまう傾向をもたらす。このような企業では、資本を十分に活用しないことが安全な賭けと見なされるのだ。
フィンリスティクス・ソリューションズ社(FinListics Solutions)では、企業がどれぐらいSCM資本に焦点を合わせているかを見るために、以下のテストを行うことにしている。これを、あなた自身の組織に適用してみて欲しい:
・何%のマネージャーが、自分が管理する予算の大きさを知っているか?
・何%のマネージャーが、自分が管理する資産(在庫、倉庫設備、輸送機器、技術投資)の簿価を知っているか?
典型的には、大多数(90パーセントあるいはそれ以上)が自分の経費予算の大きさを知っている---多分ボーナスが予算と関連づけられるので。対照的に、自分が管理する資産への投資がどうなっているかを知っているマネージャーは10パーセントに満たない。あなたは、自分の家や自動車がいくらの価値を持っているかを知らないことを想像できるだろうか?あるいは、銀行で新しいローンを相談しようという時に、あなたがどれほど価値を持っているかが判らない方が良いのだろうか?この問題を扱うために多くの企業が、経済利益または資本利益率(return
on capital)のような利益評価基準に基づいてSCMシステムを導入してきた。これらのアプローチは、マネージャーが収益性と資本回転の両面にフォーカスする手助けをする。
そしてCFOは、SPEED、収益性、株価に与えるSCMのインパクトを、戦術面と戦略面の両面から見ている。
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CFOの見地 |
特記 |
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戦術的 |
資本活用改善、在庫回転、ネットワーク統合、売掛回収期間などの、部門レベルの最終成果(ボトムライン)にインパクトを持つものは何か? |
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戦略的 |
資本活用面のSCM改善により、何が新規ビジネス機会を創り出すのか?例えば、自由な研究開発投資、低い利益率での新市場参入、競争優位確保のためのSPEED増分の活用 |
戦術的な見地
在庫を何日分か減らすことが最終損益にどのような影響を及ぼすかを調べることは、戦術的な見地の良い例を提供する。S&P対象企業平均では、5億ドルの在庫を持っており、それは60日分の在庫に当たる。同じように平均企業は、在庫価値の10パーセントに相当する“非資本在庫移送経費(noncapital inventory-carrying costs)”を負担している。非資本在庫移送経費には、廃棄、倉庫維持、損害、盗難、保険、税金のような運営経費が含まれる。輸送手段を改善するSCMソリューションが20パーセントの在庫あるいは12日分の在庫を減らすことを考えてみよう。他方それは、輸送経費を5百万ドル増やすことになる。
もしあなたが自分のボーナスが輸送支出に縛られるような輸送マネージャーならば、この種の運動(initiative)にはほとんど魅力を感じないだろう。しかしCFOの見地からそれを見てみよう。図表6は、S&P対象企業平均の経済利益と市場価値に及ぼす(改善)運動の影響を示している。
[図表6 SCMソリューションによる在庫回転日数削減]
図表6での結果は、SCMソリューションによって1億ドルの初期在庫が削減されることを示している。加えて、非資本在庫輸送経費が1千万ドル削減される。もしそのビジネスの成長が期待されないのなら、1億ドルの在庫投資は一回限りの利益ということになり、1千万ドルの削減は継続する。成長するビジネスにとっては、逐次的な在庫投資と非資本輸送経費とは収入の増大と同じ割合で増加する。例えば10パーセントで成長しているビジネスでは、最初の年間在庫投資利益は1億ドルだが、2年目は1千万ドル、3年目は1千百万ドルという具合である。非資本輸送経費効果は、最初の年が1千万ドル、2年目は1千百万ドル、3年目は1千2百万ドルなどとなる。図表6は、在庫削減運動(initiative)が、平均企業の経済利益をほぼ倍にする(1千4百万ドルのベースに対して1千3百万ドルの改善)ことを示している。
戦略上の見地
CFOの、SPEEDの戦略的見地は、SCMソリューションによって作られる新しい機会に焦点を合わせる。在庫削減運動がもたらす成果の1つの戦略上の視点は、例えば、短期の他への投資のために1億ドルを提供できるということである。企業の株価あるいは市場価値が流動性であるというもう1つの視点からの思考が続く。図表6は、市場価値への在庫削減運動が及ぼす影響が4億3300万ドルあるいは6パーセントの増加であることを示している。これは、もう1つのビジネスの買収資金として市場価格で更に4億3300万ドルをCFOに提供するだろう。他方、他社がそのCFOの会社を買収するのに、いっそう費用を掛けさせることだろう。
より多くのCFO達が、既存ビジネスの成績を改善したり持続し、新しいビジネスに展開するための、より競争優位なビジネスモデルを作る手段としてSPEEDに注目してきている。その多くが以下の例に反映されている。ある企業が1億ドルの収入と、12パーセントの収益性(88パーセントの運営費)と、1.50ドルの資本回転で運営されているとしよう。1.50ドルのSPEEDから、6千7百万ドルが資本投資されていることになる(1億ドル/1.50ドル)。図表7は、その企業の既存ビジネスが50万ドルの積極的な経済利益を持っていることを示している。
[図表7 低収益ビジネス参入へのSPEEDのインパクト]
その会社は追加収入で1億ドルの稼ぎが期待される新しいビジネスへの参入機会を持つが、既存ビジネスの12パーセントと比較して10パーセントの収益性しかないと考えてみよう。あるいは競合が増大することが予想され、既存のビジネスの収益性を10パーセントに下げると考えてみても良い。
“(かろうじて)SPEEDが存在する”と題した図表7の欄の名前は、もしSPEEDが1.50ドルのまま変化しないなら、新ビジネスへの参入は経済利益の70万ドルの赤字をもたらすことを表している。あるいは、もし既存ビジネスの収益性が10パーセントに下がるなら、経済利益は50万ドルからマイナス70万ドルまで落ちるということだ。いずれのシナリオも決して良いものではない。
新しいビジネス機会という流れがあっても、会社はそのビジネスに参入しないことを意思決定するかもしれない。この決定は、機会損失をもたらすと同時に、もし顧客が新しいサービスを提供製品全体の一部として提案することを期待しているのなら、既存の顧客からの収入も失うことになる。あるいは、会社が新ビジネスに参入するのは経済利益損失が発生する時だろう。既存ビジネスの流れの中でのSPEEDに変化のない低い収益性は、恐らくずっと低位の株価をもたらすだろう。
より良い予測とネットワークの最適化を含むSCMソリューションで、在庫と倉庫への投資を削減し、スケジューリングと工場の生産スループットを改善するとしよう。そして、これらの結果2.00ドルのSPEEDがもたらされるとする。さらに、よりいっそうの経費削減と収益性改善が見込めるかもしれないが、このことはこの例では触れないでおく。図表7では、既存ビジネスより収益性が低くいこのケースでも、新しいビジネスは100万ドルの経済利益改善をもたらすことがわかる。既存ビジネスにとっては収益性が低くても、経済利益は50万ドルから100万ドルまで実際に増加する。いずれかのケースで、SCMソリューションによる資本回転の改善は、競争優位の利点を会社に提供する。
図表7の結論として、増大する競合と顧客要求に圧迫される収益性を補う手段として、より多くの会社がSPEEDを増やすSCMソリューションに焦点を当てている理由を示している。増大する競争環境と顧客要求への対応は典型的に収益性を低下させる。新規の競争参入者は、既存業者の市場占有率を獲得すべるために、より安い価格で提供する傾向がある。さらに多くの市場の顧客は、より製品の幅を拡げてもっと良いサービスを受けるために、現状以上のコストを支払いたがらない。
図表8のフィンリスティック社による経済利益収支均衡モデルは、積極的な経済利益を上げる多くの異なった方法を見せることによって、SCMが持つSPEEDに与える影響の重要性を強調している。分析すると、この某社は資本の10パーセントのコストを持っている。収支均衡曲線は、経済利益を0にするような収益性とSPEEDの組み合わせを示している。マネージャーと投資家がしばしば連結または営業利益マージンのセグメントに言及するので、税引き前の収益性(営業利益/収入)を使っている。
収支均衡曲線上はどこでも、経済利益はゼロである。均衡曲線の上側では、収益性のレベルにかかわらず経済利益は積極的で価値が生み出されている;他方、下側では、経済利益は否定的で価値が失われている。
[図表8 経済収支均衡モデル]
このモデルは2.00ドルのSPEEDを持っている会社が8.3パーセントの収益性で均衡することを示している。1億ドルの収入の企業では営業利益(1億ドルx8.3%)830万ドルであり、NOPAT(830万ドル−830万ドルx40%の税率)として税引き後で500万ドルである。2.00ドルのSPEEDでであれば、それは資本で5千万ドル(1億ドルの収入/2.00ドルのSPEED)となる。資本5千万ドルの資本コストは500万ドル(5千万ドルの資本x10%の)であり、それは経済利益ゼロ(500万ドルのNOPAT−500万ドルの資本コスト)となっている。
企業の現実のSPEEDを当てはめると、収支均衡収益性と実際の収益性との縦の距離は1ドル当たりの収入毎の税込み経済利益である。例えば、ある会社が1億ドルの収入、10パーセントの収益性と2.00ドルのSPEEDを持っているとする。その税込み経済利益は170万ドルである[1億ドルx(実際収益性10%−収支均衡収益性8.3%)]。
このツールは、SCMの改善の結果増加したSPEEDが、いかに競争優位性と経済利益を増加させるかを示している。同じ収益性構造であれば、SPEEDを増加するどんなSCM運動(initiative)でも経済利益を増大させる。SPEEDの増加は、その企業の収益性が同等であれば、同じかより高い経済利益を生み出させることになり製品市場での競争優位性を生み出す。
成長市場への応用
ある企業と、競争の激しい製品市場で営業している競合他社のすべてが8.3パーセントの収益性と2.00ドルのSPEEDを持っていると仮定する。この収益性とSPEEDの組み合わせは収支均衡した経済利益をもたらす---そのビジネスは資本コストにちょうど見合うだけの利益をあげる。SCM運動の開始時点ではSPEEDを3.00ドルに増やすことが期待された。3.00ドルのSPEEDは、5.6パーセントが均衡収益性である。もし収益性を8.3パーセントに維持できるなら、このモデルは会社が積極的な経済利益を上げることを示している。税込みの経済利益は収入1ドル当たり2.7パーセント(5.6パーセント−8.3パーセント)となる。
しかし収支均衡収益性が今は5.6パーセントなので、SPEEDが増大すれば競争優位性をもたらす。この優位性は企業に市場占有率を獲得するいろいろな方法を与える。例えば、低価格を実現し、より高いサービスレベルを提供し、さらに多くを広告宣伝費と昇進人件費に使うことができるかも知れない。これらの要因のコンビネーションが、結果として7.0パーセントの収益性をもたらすと考えて欲しい。これは、ゴールが収益性を増大させることであるという世間一般の通念に反するように思われるかも知れない。この例における鍵は、SCM活動が、いっそう経済利益を上げることと、株主により大きな配当を提供するばかりでなく、企業により低い収益性環境でも経営できる基盤を提供するということである。
従ってSPEEDがこの例の鍵である。企業は、増大した資本回転からの利益の一部を、より低価格という形で顧客に還元してしまう---収益性は8.3パーセントから7.0パーセントまで縮小する。それ(SPEED)は、経済利益や究極的には株価の推移と同様に、他の利益をも把握する。SPEEDの増加は、その企業に1億ドルから1億2000万ドルまで収入を増加させる。SPEEDが増加することによる税込み経済利益の増加は、図表9に示す。
[図表9 SPEEDの増加と収入増による経済利益の変化]
もし競合他社がSPEEDの同様な増加を体験できないのなら、彼らは単に経済利益を縮小させるような、価格決定、サービス、広告宣伝、その他の活動に流れてしまうだけだ---そして、株価に反映して始めて向きを変える。
その他の応用
同様に収支均衡モデルは、収益性の減少を相殺して経済利益を維持するために必要なSPEEDの変化を示している。企業が現在8.3パーセントの収益性と2.00ドルのSPEEDを持っていると想定しよう。さらに、競争関係が激しくなって収益性が6.7パーセントに下がることが見込まれるとする。あるいは、新しい市場の収益性は6.7パーセントであると仮定しても良い。モデルは、収益性の低下を補うためにはSPEEDが2.50ドルに増加すべきことを示している。
このモデルは、製品レベルに適用される時に、しばしば面白い結果を示す。常識的には、8.3パーセントの収益性を持っている製品の方が6.7パーセントのものより望ましいだろう。両方の製品の、サプライチェーンの特徴とSPEEDが類似しているならば、その常識が正しい可能性は高い。しかし、8.3パーセントと6.7パーセントの収益性を持っている2つの製品が、それぞれ、1.50ドルと3.00ドルのSPEEDを持っていると仮定する。収支均衡モデルでは、8.3パーセントの収益性を持っている製品は経済利益を上げられず、価値を失っていることを示している。他方、6.7パーセントの収益性を持っている製品は積極的な経済利益を持ち、価値を生み出しいている。
あなたの会社の全体的な財務成績をベンチマーキングすることは、株価に対してSCM活動(initiatives)の潜在的なインパクトを調べる為の、良い出発点である。多くのベンチマーキング調査は、特定のSCM運営上の業績指標(performance
indicators)に注目することから始まる。しかし、これらの運営業績指標はオペレーショナルレベルの貴重な考察結果を提供するけれど、それらはCFOの見地を反映してはいない。その見地は、全体的な財務成績に止まっている。
我々は、財務とSCMの結合(financial-SCM connection)を評価するための、以下の3ステップのアプローチを推奨する。
・ 第1ステップ:最初に、レベルの高い財務のパフォーマンスギャップ分析を行うべきだ。全体的な財務のベンチマーキングは以下の調査手順による。
(1)
収入の成長度
(2)
営業利益マージン
(3)
現金運営サイクル(cash operating cycle:在庫回転日数+売掛金回収日数−買掛金支払い日数)
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固定資産回転率(固定資産/収入)
現金運営サイクルと固定資産回転率とは、SPEEDの2つのキー・コンポーネントである。後に、より詳細なギャップ分析を行う事ができるが、あくまでCFOの見地を念頭におくべきだ。
・ 第2ステップ:財務のパフォーマンスギャップに、SCM運営業績指標(SCM operating performance indicators)をマッピングする。
・ 第3ステップ:ギャップを埋めるための対策活動(initiatives)を開発計画する。
図表10に、高レベルの財務パフォーマンスギャップ分析の例を示す。分析は、“目標会社”と3つの競合他社からなる仮説の企業を想定して行う。競合他社は、目標会社(Target Company)と同業界かもしれないし他業界の企業かもしれない。アプローチは、4つの会社の中の最も良いパフォーマンスに、目標会社のパフォーマンスをベンチマークする事である。結果として表されるギャップは、次いで経済利益と株価ギャップに読み換えられる。これらのギャップの大きさは、優先して取り組む必要がある領域の識別を手助けする。
[図表10 ハイレベル財務成績分析]
図表10では、目標会社の(他社のベストパフォーマンスに対する)最も顕著なギャップは固定資産の活用であり、さらに、収益性、現金運営サイクルと収入の成長である。このマッピングからは、この目標会社がすべてのギャップを埋めることができたら、経済利益の75パーセントの増加と株価の25パーセントの上昇が見込めることが分かる。これらは、大方の最高財務担当役員(CFO)の関心を惹く結果である。
2番目のステップでは、これらのギャップにSCM運営評価指標をマッピングする。この時点では、個々のギャップはしばしば相互に関係することを念頭におく必要がある。だから、そのSCMは一般的に全部のギャップを説明はしないだろう。例えば、製造、入出庫、輸送機器利用のようなSCM業績評価指標(performance
indicators)が、目標会社の固定資産活用ギャップの一部を原因説明するかもしれない。貧弱な注文実行プロセス(order fulfillment)や過剰在庫がもたらす損失、適正化されていない配送ネットワーク等が、収入成長度、収益性、キャッシュ運営サイクル等のギャップの、部分的な原因を示しているかもしれない。
3番目のステップには、財務パフォーマンスのギャップを埋めるためのSCM活動(initiatives)をマッピングして、その企業のベストプラクティスを定義することも含まれている。このステップでSCMの専門家達が、“いかに”そして“どの程度”そのSCM活動が財務成績全体に影響を与えるか、について明確に説明できることは決定的である。これらはCFOの見地から説明されなくてはならず、技術に陥らず、株価を改善することに焦点をあてるべきである。
財務とサプライチェーンマネージメントを結合すること---それが“Cレベル”の経営者が正当に評価することができる基準でなされること---は、SCM 活動(initiatives)から予期されるブレークスルーを成し遂げる上で基本的な必要条件である。それは、サプライチェーン・マネジメントを作戦室(backroom)
から役員室にデビューさせる重大な力でもある。