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標準ECRスコアカード活用の実際
2001年11月
(財)流通システム開発センター
研究開発部 主任研究員 田代環
ECR(Efficient Consumer Response)の概要と活用状況について(財)流通システム開発センター田代主任研究員がまとめて、月刊流通ネットワーキング((株)日工テクノリサーチ発行。No.153,2001
November)に掲載された。ECRの広報趣旨に適うという事で転載の許諾を頂き、当サイトでも紹介させていただくことにした。
ECRの詳細については、流開センターのホームページ(下記)等を参照されたい。
・URL http://www.iijnet.or.jp/dsri-dcc/
・月刊流通ネットワーキング No.138(2000年8月号)
2001年11月 梅澤記
1.標準ECRスコアカードとは
ECRスコアカードとは
ECR(Efficient Consumer Response: 効率的な消費者対応)の基本概念は、企業間、流通全体を通して企業が相互に協同し、情報を共有することにより、消費者のニーズ、購買行動を的確に捉え、それをマーケティング、マーチャンダイジング、生産・ロジスティックスに適切に反映するために、業務改善を図り、サプライチェーン全体で、消費者の満足の向上を目指ことである。
このECRの遂行、実現のために、参加するメーカー、卸売業、小売業などの各企業は様々な戦略や手法を用いて、ビジネスの改善や改革を推進する。具体的な戦略、手法としては、需要の創造と供給の効率化の観点から「効率的品揃え」、「効率的商品補充」、「効率的プロモーション」、「効率的新商品導入」の4つの戦略と「カテゴリーマネジメント」が挙げられる。次に、これらの採用実施の程度や進捗の度合いを企業間でお互いに客観的に評価する共通の評価尺度が必要となる。また、個々の企業もこのような共通の評価尺度を使用してベンチマーキングのように業界のベストプラクティスを目標に設定し、これに向けての達成努力をすることも必要とされる。ここで共通の評価尺度として用いられるのがECRスコアカードである。
ECRの世界的な拡大普及に伴い、各国,地域ごとに確立されたECR推進組織によりECRスコアカードが開発、作成されている。
例えば米国版やヨーロッパ版ECRスコアカードとして独自に公表されている。しかし、これら独自に開発されたECRスコアカードは、グローバルな企業活動を展開する企業には利用しにくいものとなった。GCI(注)では、グローバルな観点からこれらを統一し、GCI版ECRスコアカードとして完成させた。
わが国では、このGCIの動きを踏まえ、経済産業省が(財)流通システム開発センターに委託し、「GCI版ECRスコアカード」に拠した「標準ECRスコアカード」を研究、完成させた。特に平成12年度には小売業と卸売業・メーカー間における「標準ECRスコアカード」の活用を中心に研究が行われた。
(「標準ECRスコアカード」の詳しい内容は流通ネットワーキング2000年8月号138において詳しく紹介)
(注)GCI(Global Commerce Initiative)とは、欧米に拠点を置き多国籍展開をしている加工食品や日用雑貨を扱うメーカーと小売業が中心となりEANやUCCなどの支援を受けて、ECRを世界的規模により推進していく目的から作られた組織である。GCIでは、「EDI」、「商品コード」、「インテリジェントタグ(RF-ID)」、「エクストラネット」、と並び「ECRスコアカード」が世界規模の課題として検討されている。
2.小売業における活用事例
1)スコアカード導入の経緯
大手チェーンストアであるA社では、日用品を含む住生活商品全般における流通構造・取引関係をECR化するために物流センターシステムを中心とする流通構造改革を行ってきた。主用取引先の日用品メーカーB社との間で、ECR化の進捗状況を把握するための、「スコアカード」を試験的に導入した。
1998年度に第1回目、2000年に第2回目の導入(なお、第1回目はA社のプライベート版、2回目は標準ECRスコアカード)を図り、3カ年のECR化政策の進捗状況を把握した。
2)評価内容
ここでは特に供給管理(サプライマネジメント)の分野のみのECR化進捗状況を時系列評価したものを取り上げる。
@供給管理戦略及び実行能力
「人事及び組織」では、1998年版では供給管理における人事組織に関する直接的な設問が無かったため、カテゴリーマネジメントにおける人事組織の機能レベルが評点されている。一方、2000年版では、サプライチェーンをトータルでコントロールする人事組織について供給管理の中で設問されており、絶対値としては高い評点であるが評点の内容が異なるため、結果として1998年度に比較すると低い評点となっている。
「情報管理」についても同様で、1998年版は、カテゴリーマネジメント及び供給管理における「EDI」というレベルで設問しているが、2000年版では「サプライチェーンデータのオンライン化」という、より全体的・統合的な位置づけになっており、絶対値としては高い評点となっている。この項目も「人事及び組織」同様、評点の内容が異なるため、結果として1998年度に比較して低い評点となっている。
一方「戦略的方向性」については、評点は改善している。2000年版の「供給管理」部分のコンセプトは、「サプライチェーンマネジメント」であるが、1998年版にはそれに相当するコンセプトが無かった。ここで評点が改善しているということは、サプライチェーンマネジメントの考え方をいち早く供給管理のコンセプトに組み入れた結果ということであり、評点の改善は実際のポイント以上に評価できるといえる。
このスコアカードの評価の結果、より一層のサプライチェーンマネジメント体制の進化、つまり、消費者情報とのより強固な結びつきを目指する。なかでも、店頭の需要予測に基づいたサプライチェーンの構築と、通常の取引関係(ビジネスプロセス)のCPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment)化が必須とされる、先に述べた「サプライチェーンの協働化による需要予測並びにその予測に基づく連続自動補充方式の基盤の整備」プロジェクトの事業構造への組み入れが必要である。また人事組織についても、ビジネスユニットとしてのサプライチェーンに合わせた組織体型・資源配分並びにその単位での成果(結果とプロセス)に合わせたや人事評価制度を取り入れる必要があると判断した。情報管理についても、全てのサプライチェーンで全ての情報を共有化することが必要であることを再認識した。
A的確に対応する補充システム
「店舗発注の自動化」については、1998年度下期にEOB( Electric Ordering Book)端末を店頭に導入しておいるため、1998年のスコアリング段階では評点の対象となっておらず評価が低くなっている。一方2000年の時点では、補充発注行為はEOB端末で行われているが、店頭在庫と棚割は反映されていない。システムとしては、EOB端末による店頭在庫並びに棚割の補正機能は存在するため、今後はその運用精度を高めていき、発注勧告の出力及び補充発注の自動化を推進していくことが求められる。
「補充システム」のうち、店頭の補充発注については、上述の通りである。DC(在庫・配送)センターの補充発注については、出荷実績ベースの需要予測による自動補充体制が採られており、結果評点は改善されて絶対値も高くなっている。今後は、店頭の需要予測精度を高めると共に、その予測と連動した(つまりは店頭の需要予測の積算による)センターの出荷計画を構築していくことを目標とする。ちなみに、EDI規格は既に業界標準であり、全ての取引先とオンライン化されている。
[小売業A社と日用品メーカーB社の事例]
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小売業A社の自己評価 |
日用品メーカーB社の自己評価 |
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S.供給管理(サプライ・マネジメント) |
1998年 |
2000年 |
2000年 |
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S1.供給管理戦略及び実行能力 |
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戦略的方向性 |
2.0 |
3.0 |
2.0 |
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人事及び組織 |
4.0 |
3.0 |
1.0 |
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|
情報管理 |
3.0 |
2.5 |
2.0 |
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S2.的確に対応する補充システム |
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店舗発注の自動化 |
1.5 |
3.0 |
N/A |
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|
連続補充 |
2.6 |
3.5 |
2.0 |
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|
物流手法 |
2.0 |
2.5 |
3.0 |
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|
配送の最適化 |
― |
2.0 |
3.0 |
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効率的なユニット・ロ−ド |
― |
4.0 |
1.0 |
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S3.
需要に基づく供給の統合 |
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需要に連動した生産 |
0.0 |
N/A |
1.0 |
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サプライヤ−との業務プロセスの統合 |
0.0 |
N/A |
0.0 |
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S4.
オペレーションの信頼度 |
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店舗オペレーションの信頼度 |
1.7 |
2.0 |
N/A |
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配送オペレーションの信頼度 |
2.0 |
3.0 |
3.0 |
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生産オペレーションの信頼度 |
0.0 |
N/A |
4.0 |
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※ 小売業A社のみ1998年度と2000年度を比較。1998年度の評点はは2000年版による推定換算後の評点。
※ 小売業、S2の{配送の最適化}と「効率的なユニットロード」は、1998年版に該当する項目はない。
※ 今回の事例においては小売業と日用品メーカーの共同評価は実施せず。
「物流手法」について、DC(在庫・配送センター)型かTC(通過センター)型かの選択は、単品・販売形態単位で意思決定されており、一定のサービスレベルを維持しながら、物流コストを最適化している。ただし、選択基準としての活動基準原価については、厳密なABC(Activity
Based Costing:活動基準原価計算)の手法が採られているわけではなく、その結果、サービスレベルとコストが固定化する傾向にある。今後は、厳密なABCによるコスト把握を定型化するとともに、物流手法の選択についても、サプライチェーン内での費用対効果による選択、並びに最適手法のリアルタイムでの選択が可能な体制を構築することが必要となる。
「配送の最適化」について、配送形態(時間や頻度)はサービスレベルの観点から現状決定されており、その範囲では合理化は行われており(混載・共配による積載率の改善等)継続的な監視体制もある。ただし、そのサービスレベルが配送先(店頭)にとって本当に必要なのかの検証は行われていないため、構造的に過剰なサービスレベルになっている可能性もある。スコアカードでは「合意されたサービスレベル、及び在庫レベル」と表記されているが、今後はその「合意」のあり方について見直が必要であり、また過剰なサービスレベルを適正化することで得る合理化益がサプライチェーンの中で還元されることを明示していくことが必要となる。
「効率的なユニットロード」について、全ての流通経路でハンドリング作業を最小限にするための管理体制は既に敷かれている。オンラインによる情報交換もEDIの中で完了しており、評点も最高点となっている。むしろ課題としては、流通業界全体の標準化ということになる。第一に、ユニットロード最適化のための物流政策としての「一貫パレチゼーション」の見直しである。我が国の小売業は、米国等のそれに比べ売場やバックヤードの面積が非常に少ないため、スコアカードでも表現されている通り、流通経路の中で「一貫」という考え方はなじまない。つまり、我が国の流通経路における効率的なユニットロードとは、一次元・二次元・三次元をデータ上互換することで「一貫」性を確保することである。もう一つは、二次元・三次元アイテムの規格の統一である。規格の統一性が無い現状では、配送車両の積載率を管理することは困難であり、かつ共同配送が進まない大きな要因となっている。小売業者全体が業界団体に対して、上記の要望を継続して行うことが必要である。
Bオペレーションの信頼度
「店舗オペレーションの信頼度」については、生産性を把握し改善するシステムは機能しているが、「店舗発注の自動化」でも述べたように、店頭の棚割・在庫補正機能が、システムとしては存在するものの運用精度が低い現状では、その有効性は検証できていない。今後は、店頭の棚割・棚在庫を把握し、店舗オペレーションの有効性を把握し改善できる体制を構築することが必要となる。
「配送オペレーションの信頼度」については、システムとしては評点は最高点に値するが、一部運用精度が低いことが影響した結果の評点となった。各店・各ベンダーとの配送出来映え管理や、各ベンダーとの請求管理については、基本的にはオンラインで(運用上一部目視も含む)既に行われている。
3.今後の課題
ECRは、取引先との協力がなくては達成できないため、取引先との協同体制を構築し、お互いの業務改善を目指すことを共通認識することが前提となり、その環境が整ってECRスコアカードの導入が可能となる。
また、わが国では従来から結果評価を重視する傾向があるが、これをプロセス評価への移行を図ることが必須あり、経営層に導入の理解を得るポイントでもある。このようなECRへ対する姿勢、環境作りが一つの課題となる。
実際の導入に関しては、スコアリングについての、社内横断的なプロジェクトチームを組織することなど社内の共通認識、理解を得ることも必要となる。さらに、スコアリングに費やす人的、時間的コストへの対処が課題とされるであろう。
これらに対応して、GCIでは簡易型のスコアカードを開発している。これは「Top Line」とよばれ、@特に数多くのサプライヤーとの取引が存在する小売業向けに開発したこと、AGCI版ECRスコアカードでは37の概念的要素とそれに対して5段階のレベルの記述があるが、これを簡素化、具体的な質問形式で回答は3段階としたこと、BECRスコアカードとの一貫,整合性を持たせたことが特徴である。これにより、標準ECRスコアカードの導入における人的、時間的コストの削減が図られ、比較的規模の小さい企業や、ECRその取り組みを始めたばかりの企業にも容易に導入出来るスコアカードとなっている。
わが国においても、「Top Line」の導入に向けての研究が必要であろう。
なお、「標準ECRスコアカード」は(財)流通システム開発センターのホームページに掲載され、解説文と実際の「標準ECRスコアカード」採点表がダウンロードできる。
流通システム開発センターURL http://www.iijnet.or.jp/dsri-dcc/
2001年11月
(財)流通システム開発センター研究開発部
主任研究員 田代 環