SCMの理論

少しHPをにぎわすために、第2弾の論説を作ってみました。論文ではないので、数学的な記述にはふれませんでした。

2001年6月13日 岡田英明


 サプライチェーン・ビジネスモデル(ここではSCBPとしておこう)を、bウエブの基盤(インフラストラクチャ)上で展開している「eマーケットプレース(e市場(いちば))」は、SCBPの新しい1つのビジネス・スタイルとして定着しつつある。業界によっては、e市場が必ずしもなじまないために、e-市場を立ち上げた後に、撤退を余儀なくせざるを得ないケースもあって、新しいSCBPも必ずしも単純ではない。
 e-市場では、購入側にはロジスティックスの様々な問題を解消してくれる仕掛けが用意されているから、経営のメリットは十分に考えられる。かつて、大手企業の購買がやっていた、「コック方式」の購買に似たところがある。しかし、供給側企業の立場にたてば、e-市場は最も経営効率のよいロジスティックスをそこに実現しなければならず、供給側企業には高度な経営手法が必要になる。それがSCMの理論である。

 「最も経営効率のよいロジスティックス」の追求は古い話で、SCMの理論(数学的理論)はほぼ完成されされていると言っていいだろう。ロジスティックスは、理論(数学モデル)があるといっても、それは確率変数の世界でのモデルであるから、少々厄介である。確率空間での事象を扱うから、確率・統計学理論と手法を多く使う。数学にある程度堪能でなければ、ロジスティックスの理論の世界へ足を踏み入れるのに躊躇するだろう。このことが障壁となって、理論的には古いロジスティックス理論であるのに、長い間多くの企業には手付かずになってきた。多くの人が言ってきた「ロジスティックス」は、概念だけを言っているだけで、形だけを書いていたに過ぎない。残念なことである。
 ロジスティックスは、確率空間での制御モデルであるといえる。宇宙空間での人工衛星の制御は、1つのアナロジーである。自分の現在の状態を示す状態変数と外乱変数と、自分の状態を変えるための操作変数とでモデルが出来ていて、状態変数と外乱変数とが確率変数なのである。これらは、確定的に値が決まるわけではなく、確率的に値が決まる。

 企業の経営活動は、経済活動空間の中で不測の要因がさまざまに作用して、時間進行するシステムである。不測の要因が1企業の経営活動の状態を狂わせる。不測の要因の中には、為替レートの変動、株価の変動、取引相手国の政治経済の変化、なども含まれる。こうした不測の要因は、予測が難しい。それでも経済活動空間に、不測の要因が存在するのを承知の上で、なんとかして経営活動状態をコントロールしながら、計画(利益予算)をクリヤーできるように活動を続けなければならない。ロジスティックスは、事業という人工衛星を目標に向かって進ませる、1つの制御モデルである。
 SCBPは、物(原料や中間半製品や製品)に着目して、そのトランスフォーメーション(変換)を実行するビジネスプロセスのシーケンス(機能の連)を必ず持っている。トランスフォーメーションとは、化学反応、精製、加工、組立などのビジネス機能(業務機能)のことである。SCBPには、この他に物の搬送というビジネス機能が必要である。
 SCBPの構成単位であるビジネス機能(ファンクション:業務機能)の特徴は、3つの時間要素を持っていることである。
ビジネス機能固有のサイクル時間(ビジネス・ロットの1処理当たりの時間):t
ビジネス機能固有のプロセス時間(リードタイムの要素):T
ビジネス機能結合のアイドル時間(リードタイムの要素):τ

 ロジスティックスは、経営の目的関数を最大にするために、様々な操作変数を操作するのだが、その前に目標に至る状態の軌道を予測する必要がある。目的関数そのもののパラメータが時間の関数であるのだが、それを仮に固定したものと考えても、現在のビジネスプロセスの状態が常に変化しているから、目標に至る状態の軌道の予測は常に修正しなければならない。
 例えば、自動車の部品メーカが、部品を製造するための原材料を仕入れるのに、部品の予定製造数量を予測しなければならない。それには、この部品が使われている車種の製造数量を知らなければならない。自動車メーカの自動車の製造数量は、刻々と変わっていくから、納品すべき部品の数量も変っていく。このときに、どこまで先の未来を予測すればいいのか?部品を製造するのにかかる時間、T+τ だけ先の予定を予測できればよい。
 高度成長期のように、作った部品は必ず注文がきて売れる、という時代には、前もって作っておく部品の製造数量は、多少大まかな予測によって決められたとしても、大きなリスクにはならなかった。しかし、現在は違う。もし予測が間違えば、作りすぎた部品は死に在庫となり、経営は大きなリスクを背負い込む。
 T+τ が大きければ大きいほど、予測の曖昧さが大きくなる。どれだけ確かな予測が出来るか、の努力と工夫を継続させながら、SCBPのコントロールを行わなければならない。もし、T+τを短縮することが出来れば、予測はより近い未来を予測することになるので、予測の確からしさは増してくる。この努力も必要である。

 欧米では、予測の応用研究が盛んである。予測理論はほぼ完成されているが、現実の世界では理論の適応が難しい局面が多い。予測に使うデータをまず統計学的にフィルタリングするのは当然なことであるが、その上で、予測モデルの適合性を検査して、モデルを選ぶ。予測モデルで重要なことは、予測が当たることではなく、予測誤差を管理できるか否か、である。日本の企業には、予測理論を使うことを嫌う傾向がある。予測モデルを使って予測したところで、当たらない、というのが大方の理由である。そう言いながら、KKD(経験、勘、度胸)で予測をやっているのである。欧米には、パソコンでできる、優れた経済的予測法のソフトウェアが売られている。私も利用しているが、優れものがある。
 在庫の安全性やリスクも、T+τ と時間の確率関数である。在庫は直接的な操作変数ではないが、SCBPモデルのトラッキングのための重要な状態変数である。「リードタイムの短縮をする」という経営目標は、プロセスの改善、改革、置換えなどの努力によってリードタイム短縮することを意味するだけである。リードタイムを短縮しただけで、SCBPのオペレーション(日常的経営活動)全体が良くなるわけではない。SCBPの要となるパラメータT+τを、SCBPの目的関数を最大にするように、短縮の努力をしながら、SCBPのオペレーションをリエンジニアリングしなければ、経営効果は出てこない。これはSCBPの形ではなく、中身の問題であるから、SCBPの理論的(数学的)モデルとそれをオペレーションできる人材とが無ければ、現実に機能はしないだろう。

June 13, 2001<<<岡田英明>>>