サプライチェーン経営革命
The Current Revolution of the Supply Chain Management
=製造・物流・販売を貫く最強システム=

1998年9月
福島美明著
日本経済新聞社発行


 本稿は、故福島美明氏が、SCM研究プロジェクトリーダーとしての活動の傍らの様々な媒体への寄稿などをまとめて出版した「サプライチェーン経営革命」(1998年9月日本経済新聞社刊)からの抜粋・紹介である。
 丁度3年前の出版ではあるが、混迷を深める日本経済、光明の見えない市場の中で、ともすると萎縮してしまいがちな日本企業、・・・。残念ながら、本書の警鐘としての目的状況は全く変っていない。否、一層厳しくなっている。4年ほど前から彼が一貫して叫び続けてきた「サプライチェーン経営革命」などの世界的なSCM啓発活動に触発されて、右往左往しながら何とか再生のシナリオを描きはじめた日本企業・・・。しかし、「世界の中の日本市場」には最早、唯我独尊の「革命」をマイペースで試行錯誤している暇は与えられない。政府も民間も「改革」を断行していくしかない、のである。
 このような中で本書を振り返って見ると、本自体の構成は、彼の当時の見聞を集積したものであり決して専門書としてこなれた著作ではなく、独自理論を開陳したものでもない。しかし今に至ってなお、日本企業の「課題」も「解決策」も、この本の随所に覗くことができる。しかも日本企業の現実は、未だに、「実行計画」、小泉内閣流に言うと「工程表」を明らかにする事ができないでいるのである。最早、「新しい」「ソリューション」に目を奪われて試行錯誤している暇はないのではないか、このような思いで本書を再び紹介する事にした。

 また、下記に転載させてもらった「結語」に「松下村塾」を引用しているように、彼としては、このプロジェクト活動を「ミニ大学」か「バーチャル塾」のようなものに発展させたかったようだ。この4月に当サイトへの彼の研究室設置を相談した時には、そのような夢を話してくれた。本書には、そんな「啓蒙書」としての意味合いが大きい事が頷ける。当サイトの運用目的の一つもそこにあるので、何とかコンテンツを拡充してこの面でも発展させていきたいものだと考えている。

 SCM研究プロジェクトは、ERP研究推進フォーラムのプロジェクト研究部会を中心に組織したIT業界という職域を越えた研究活動(98年4月〜99年9月)である。ERPフォーラム会員外の企業や個人の参画を得て幅広い関心と知見を集めることができた。故福島氏はその初代リーダーであり、月例会や「SCM提言セミナー」の主催、「事例研究WG(ワーキンググループ)」などを指導して頂いた。この活動は、99年に発足する事ができたSCC(サプライチェーン協議会)日本支部の活動に一部継承されている。また、第9号までERPフォーラムで続刊した季刊「SCMリサーチレビュー」誌は、同プロジェクトの機関誌として発刊したものである。

2001年9月
梅澤伊憲 記


(第七章、結語。「サプライチェーン経営革命で日本を活性化する」)

 SCM研究プロジェクトは、98年8月の段階で、約110名の体制となった。SCC日本支部との連携により、世界380社を越える企業の方々との交流も可能となった。各方面からも、様々な期待をよせられている。
 行き詰まった日本経済、変化にもがく日本企業に、改革のヒント、革命へ踏み出す勇気、推進のノウハウを提供できる存在になりたいと、大それた思いを持って活動を推進している。
 混迷の時代に、「蟷螂の斧」の存在ではある。しかし、「思い」を持った、集団のエネルギーが未来を開くことは数々の歴史が証明している。
 例えば松下村塾のように。
 大海の一石が、さざ波から津波になるように、活動を展開していきたい。


(前文)

 今、私達は革命の中にいる。情報革命や技術革命は社会の変化を加速する。世界に張りめぐらされたインターネット網や、ロジスティクス網は時間や距離の制約を解き放った。企業は、国を越え、大陸から飛び出し、世界のスタジアムで大競争を展開している。世界大競争は、企業を鍛える。行動はますますダイナミックに、俊敏になる。
 一方、顧客のニーズは、成熟社会の中でますます個性化し多様化する。グローバルなマーケットは、多様な価値観。文化、伝統を持ち、ローカルな個性を求める。
 超・高速化する企業社会、ますます多様化する顧客ニーズ、そして社会環境。このような時代、このような社会に、個性を失った「ソウゴウ」企業、自律性の乏しい「ケイレツ」、俊敏性に欠ける中央集権組織、「恐竜組織」は対応できない。
 生き残れる組織は、サッカー型組織だ。個性豊かなスペシャリティを持つ一人一人が優秀な頭脳と運動能力を持つ。ゴールに向かってスペシャリストたちが連携しながら「スピーディー」に全力疾走する。様々な個性の組み合わせが多彩な戦略を生み、ライバルを圧倒する。様々な状況変化にも、俊敏に対応し、素晴らしいテクニックを見せつける。
 サプライチェーン経営革命はサッカー型マネジメントを目指す。変化、多様性に対応できる身軽で俊敏な組織、個性的実力派スペシャリストのフレキシブルな組み合わせが、高回転のスピード経営で顧客満足、事業価値を高める。
 時代の要求に応えられるマネジメントを発明した企業が勝利する。その発明の一つがサプライチェーン経営革命である。ますますスピードを早め、スペシャリティーを磨き、柔軟性を高めるアメリカ企業に対し、日本の企業はあまりにも硬直化していないだろうか?
 1980年代までの成功が未だに忘れられない「夢の中の人々」が多くないだろうか?
 経営は発明するものであり、伝統ではない。サプライチェーン経営革命には、今、自信を失い、立ちすくみがちな日本企業の再生のヒントにあふれている。
 本書は、多くの人々のノウハウ、アドバイス、「知」のサプライチェーンによって、はじめて実現できた。「知」をサプライしていただいた、SCM研究プロジェクトを始めとする多くの仲間に感謝したい。これからも、「知」のサプライチェーンを通じて、日本企業の活性化に少しでも貢献していきたい。

1998年9月

福島美明


(目次)

第一章 アメリカで旋風を巻き起こす経営革命
 1.注目を集めるデルモデル
 2.サプライチェーン経営革命に取り組む各社
 3.ハイテク業界は需要連動できる俊敏な体質作り競争
 4.今、なぜ日本にサプライチェーン経営革命が必要か
 5.急成長するSCPベンダー

第二章 経営モデルとしての考え方
 1.リエンジニアリングの系譜
 2.自動車産業のサプライチェーン・モデルの歴史
 3.サプライチェーン経営革命の三レベル

第三章 様々な経営手法
 1.サプライチェーン経営革命を支えるIT技術
 2.経営技術は情報技術とともに進歩する
 3.多品種少量時代の新しいマネジメント概念の登場
 4.EDI/CALSがサプライチェーンの中に統合化
 5.QR/ECRからのSCMの展開

第四章 市場環境を突き崩す先端経営
 1.アメリカ自動車産業がオープン化
 2.「グローカル」で最強の経営
 3.ビジネスモデル競争が激化するアメリカパソコン業界
 4.「作るより買う」調達サプライチェーンで効率化を追求
 5.顧客満足向上を目指し経営革命に挑戦する

第五章 行き詰まった日本型経営
 1.陳腐化しつつある日本のビジネスモデル
 2.俊敏性に欠けるマネジメント・システム
 3.分断された日本中心の情報システム
 4.業界、企業ごとに特殊化された仕組み
 5.型にはまった日本流ベストプラクティス
 6.ビッグバンが必要な多くの業界

第六章 日本へのソリューション
 1.今、起きている現実としての革命
 2.サプライチェーン経営革命の成功の方程式
 3.サプライチェーン経営革命は日本企業へ適用できるか
 4.経営革命へのソリューション提案
 5.事業の単位の設定と事業価値の定義
 6.事業価値を実現し、利益を生み出すメカニズム
 7.サプライチェーンを構築するためのメソドロジー
 8.サプライチェーン構築を目指した組織総合力の展開
 9.日本企業の再活性化のために

第七章 サプライチェーンが国際標準化へ
 1.急速に拡大するサプライチェーン・カウンシル(SCC)
 2.SCORは日本で有効か
 3.世界へ活動を拡大するSCC
 4.サプライチェーン経営革命で日本を活性化する