サプライチェーン 18の法則

時間をキャッシュに変えるしくみ

ビジダイン代表取締役
経営コンサルタント 今岡善次郎
http://www.bizdyn.com


 本論は、今岡善次郎著「サプライチェーン(時間をキャッシュに変えるしくみ)18の法則」の前書きと目次の部分をそのまま、当サイトの
・「SCM入門」
・「SCMソリューション」の「BPE・方法論」
の双方に並列掲載させていただくものです。
 同書は2000年1月に日本経済新聞社から刊行されました。今岡先生からは、同書を寄贈していただくとともに、以下のようなメッセージを頂戴しています。

 ザ・ゴールについての私の解釈を序章で述べた(別稿「サプライチェーンマネジメント」)のは今でもかわりませんが、私のホームページでも紹介している拙著「サプライチェーン18の法則」(日本経済新聞)では、先のTOCがヒントとなってトヨタ生産方式を理論化する試みになっています。これもどこかで紹介頂ければありがたく存じます。

2001年8月 梅澤記

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はじめに

 サプライチェーン経営とは、ビジネスの原点である「売り買い」の伴ったモノの流れの連鎖から、メイク・マネーの(キャッシュを生む)メカニズムを構築しようとする、原始的な響きを持った経営論である。
 しかし、メカニズムという限り、そのしくみには理論が無ければならない。本書は、そうした期待に挑戦した試みである。

サプライチェーン経営の本質をとらえる

 「サプライチェーン」という言葉は、日本経済新聞を始めとする様々な経済紙誌において、すでに一般的な経営用語として普及しているが、SCM、ERP、CRM、BPR、MEP、MRO、TOC、BTOなど、情報技術(IT)と関連づけられた三文字英語の一つと見なされ、なかなかその本質が整理されていない。
 サプライチェーン経営が、ITとともに日本企業に導入されたことは紛れもない事実だが、その本質を理解することは、その単純な言葉とは裏腹に簡単ではないようである。
 なぜなら、明確な理論がないために、ITの多様性とともにバラバラに理解されてしまうからである。共通する成功事例や要因分析がなければ、ソフトウェアの製品紹介としての現象(事例)が氾濫することになる。
 しかし、サプライチェーン経営は、IT以前に存在する概念である。
 サプライチェーンとは、単なる供給(サプライ)業務の連鎖(チェーン)である。資材調達、加工、組立、物流、販売といった供給業務の連鎖をうまくつなぎ、チェーン全体の販売を含む業務スピードを上げるには、マーケティングや組織論を含んだコンセプトとして、サプライチェーン経営を定義する必要がある。

経営パラダイムの転換

 工業化時代、すなわち右肩上がりの経済成長が続いていた時代には、需要が供給を超えている経営環境の中での経営を考えていればよかった。メーカーによる新しい提案によって需要が作られ、メーカー主導で流通が支配されていたと言ってもよい。
 ところが現在、従来のメーカーの立場(視点)からは、消費者が見えなくなった。そのため、過剰な流通在庫と機械損失が同時に発生し、キャッシュの流れに問題が生じてしまう。多くの企業が直面している問題は、もはや工業化時代のプッシュ型パラダイムでは通用しないという事実なのである。
 日本や欧米で共通して起きている現象は、売り手市場のサプライチェーンから、買い手市場のサプライチェーンへの見直しを迫るものである。サプライチェーンを横切る生産・販売といったビジネスプロセスを、最終消費者の需要を起点として見直さなければならない。その必要性は、多くの経営者がひしひしと感じていることであろう。
 そのための手段としてITの活用は不可欠だが、その前に、サプライチェーンのモデル革新と迅速な改善活動を理解する必要がある。つまり、ITに振り回されるのではなく、うまく活用することによってこそ、サプライチェーンは進化するのだ。
 従って、まずはサプライチェーン経営の法則(理論)をモデル化する必要がある。法則とは、一つひとつ違う現象であっても共通するモデルとして説明することができ、幅広い分野へ適用できるものである。
 たとえば、サプライチェーンの原型とも言えるトヨタ自動車のカンバン方式(ジャスト・イン・タイム)は、それとはまったく異なる業界である、スーバーマーケットの商品補充方式がヒントとなって生まれたものであるという(注1)。しかしそれは、ロジスティックスの世界と生産の世界に応用可能なモデルとして、全世界に普及した考え方である。

時間をキャッシュに変える

 サプライチェーン経営の最終目的は、時間の有効活用でキャッシュベースの収益性を高めることにある。
 ジャスト・イン・タイムは、戦後のドッジ・デフレ時代に過剰在庫を抱えて資金繰りに困っていたトヨタを再生させた生産管理方式である。ジャスト・イン・タイムによってリドタイムは三分の一、コストは二分の一になり、必要な運転資金は激減したと言われている(注2)。
 QRを導入した米国小売業の巨人ウォルマートやJCペニー・デラーズは、在庫回転を50%から70%へと向上させ、売上も数十%伸ばしている(注3)。
 日本で初めて、アメリカのサウスランド社からコンビニエンスストアのチェーンシステムを導入したセブン−イレブン・ジャパンは、3000アイテムの品目と30坪の売り場はそのままに、売れ筋と死に筋を明確にした流通革命で、創業10年目には店頭在庫を半減、一店舗における一日当りの売り上げを60%も向上させている(注4)。
 これらに共通する狙いは「時間をキャッシュに変える」ことにある。具体的には本文で触れるが、在庫を減らし、経営のスピードを上げることで、キャッシュを生むスピードを向上させることにある。これこそがサプライチェーン経営である。

従来の考え方と何が違うか

 本書では、こうしたサプライチェーン経営の力学を、18の法則にまとめている。
 キャッシュを生むまでの価値連鎖を設計する場合には、在庫、そして時間という経営資源の活用が鍵となる。本書では、まず従来のパラダイムとの違いを、在庫と時間について考察することから始めている。
 18の法則といっても、18という数字に大きな意味があるわけではない。サプライチェーン経営の成功要因を見るための視点を18個用意したということである。
 本質を複数の部分に分解して理解することの限界を指摘しているのが、複雑系の科学だが、サプライチェーンの本質に迫る場合も同様である。18の法則に分解するのではなく、視点の数を18個用意したと解釈していただきたい。
 本書では、同じことを別の視点から改めて協調したり、逆説的な言い回しにしたり、多面的に記述している。

モデル化してこそ個々の事例に適用できる

 「多くの事例が自社にはあてはまらない。自社に最も近い成功事例はないか」。
 セミナーやコンサルティングをしていると、こうした質問を受けることが非常に多いが、重要なのは、他社の成功例をそのまま真似ることではない。成功の法則を抽出して自社に適用することである。
 人間一人ひとり、個性があって違うように、企業によっておかれた市場環境は違うし、昨日と今日とそして明日のあなたの会社は違う。したがって本書では、事例やメタファー(比喩)を数多く用いている。それは、業種や規模を超えて、できるだけ共通で普遍的な法則を引き出すためである。
 本書のような「法則」という形でのモデル化は、読者にとって、サプライチェーン経営を自らのビジネスへ適用する際の格好なガイドとなるであろう。自社特有の問題を解決するために、これらの法則が役立つに違いない。

 さて、本書の企画は、日本経済新聞社出版局の伊藤公一氏との話の中で生まれたものである。
 氏とは以前、日経ビデオ『実践!サプライチェーン経営』でも共同作業をしている。いずれの仕事もそうだが、「本質をできるだけシンプルにすることで実践方法が見えてくる」という共通認識から出発している。
 この野心的な仕事が、読者の皆様に受け入れていただければ幸いである。

2000年1月 今岡善次郎

(注1)大野耐一『トヨタ生産方式』ダイヤモンド社、1978年。
(注2)金田秀治『不安定化理論』ぱる出版、1997年。
(注3)森龍雄『世界最強のディスカウントストア ウォルマートの成長戦略』商業界、1990年。QRとはクイックレスポンスの略で、小売りの販売情報を製造工程に反映させ、発注から納品までの時間を大幅に短縮するしくみ。
(注4)緒方知行『セブン−イレブン・イトーヨーカ堂の流通情報革命』TBSブリタニカ、1991年。

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サプライチェーン 18の法則・目次

今までの考え方と何が違うか
法則1 在庫はコストというよりも時間である
・在庫の役割
・時間のズレを調整する
・在庫は製品価値を下げる時間
法則2 スピードが勝敗を決める
・在庫回転率が経営のスピード
・サプライチェーンの力学
・コストよりスピード
法則3 在庫こそキャッシュの源泉である
・モノが消費する時間
・三つの在庫時間
 =段取り替え時間
 =能力待ち時間
 =バッチ待ち時間
・在庫時間は宝の山
法則4 必ずしも効率はキャッシュを生まない
・キャッシュを生む時間と生まない時間
・制御できるスピードを見分ける
・制御できないスピードをコントロールする
・部分的な効率はキャッシュを生まない
法則5 原価計算にまどわされてはいけない
・原価計算の前提条件
・価値は時間の経過とともに変わる
・原価計算による利益操作
・キャッシュを生む原理
法則6 全員に能力があっても全体に能力があるわけではない
・何がキャッシュを生むスピードを決めるか
・バラバラだとキャッシュが生まれない
・平均能力はあてにならない
・同期化がサプライチェーンを強くする
法則7 非効率をなくそうと集中化するとさらに非効率になる
・テーラーかペッツィンジャーか
・集中制御による混乱
・ビジネスの枠組みに合わせて
・ニンベンのある自動化
・すべてを一人でこなすセールスドライバー
しくみとコツ    [ページトップへ
法則8 99%の従属変数と1%の独立変数が収益を決める
・なぜ売り上げが増えないのか
・独立変数は瞬時に変化する
・きめこまかなメッシュで決める
・代替資産を持っているか
法則9 情報共有とチームワークが同期化を進化させる
・渋滞を避けるために
・管理が阻害する同期化
・情報共有とIT
法則10 まとめて一括は損をする
・スケールメリットは損?
・仕事のサイズ
・一個流しの難しさ
法則11 業務を統合すればストックポイントは減る
・乗り継ぎ回数を減らす−クロスドッキング方式、セル生産方式
・牛乳売りのサプライチェーン
・ストックポイントか作る在庫時間
・シミュレーション:業務の数と在庫の増減
・モジュール化
・鉄道輸送とトラック輸送
・組織戦略とストックポイント
法則12 常に計画と実行を一体化させろ
・連続的な管理サイクル
・スピードが連続性を可能にする
・リアルタイムの連続性
・連続性による同期化
・制約理論とボトルネック
法則13 組織の壁にまとわされるな
・ウォルマートとP&G
・顧客視点のコア・コンピタンス
・ITが促進する情報共有
・店舗を持たない小売業・工場を持たない製造業
・顧客視点を共有して可視性を上げる
・視点の移動
法則14 供給地点をできるだけ需要地点に引き寄せる
・業務を逆転させて需要に近づく
・ポーストポーンメント
・同時並行で同期化する
法則15 熟練は同期化を進化させる
・シミュレーション:熟練度とキャッシュを生むスピード
・GEのストレッチ
・サービスレベルのチェック
・安全在庫を固定化しない
法則16 人や設備の余剰は在庫を減らす
・在庫も資産である
・分散による生産能力の余剰
・余剰能力の先行投資
・能力の余剰が強くする
・能力のマネジメント
陥りやすいワナ    [ページトップへ
法則17 成功体験の持続は変革への抵抗となる
・現実を直視せよ
・強みが弱みに変わる
・過去に固執しない
・羽があるから飛ぶのではない
法則18 供給と需要はコインの裏表である
・需要は予測できない
・デマンドチェーンとサプイチェーン