SPC*提案

=日本発・ビジネスプロセス記述標準の策定について=

2001年3月
褐o営資源システム研究所 取締役研究開発部長 梅澤伊憲

 本資料は、流通システム開発センター受託事業「商取引情報モデル調査委員会」の平成12年度「機械工業経済研究報告書」向けの予稿に、一部手を加えたものです。また、文中のソフトウェア名称は当該企業若しくは団体によって商標登録されています。詳細の問合せなどは、夫々の当該企業または団体宛てにお願いします。 

(注*)SPC:Standard for business Process Classification(ビジネスプロセス[記述]分類標準)。SPA**の議論を進める過程で生まれてきた、「ITコンポーネント実装レベルの記述」と「日本要件を織り込んだ記述分類」としての提案

(注**)SPA:SCOR***、PDRTM****、ARIS toolsetTMの、三つの参照モデル、プロセスリポジトリ、ツールを統合することによって、企業(若しくはサプライチェーン全体の)ビジネスプロセス・エンジニアリングを統合しようとする、コラボレーションならびにその成果物を指している。拙稿「SPAプロジェクト提案=統合化されたビジネスプロセス・エンジニアリング」参照

(注***)SCOR:Supply Chain Operation Reference model(サプライチェーン協議会[本部米国、日本・欧州などの各国・地域に支部を持つ。参加企業は約800社、内日本企業は100社強となっている]が制定し改版・維持している、サプライチェーンに関するビジネスプロセスの参照モデル)

(注****)PDRTM:プロセス・デザイン・リポジトリ。Nixシステム研究所代表吉原賢治が多年の蓄積をもとに体系化、平成11年度IPA助成事業に認定され10業種のビジネスモデル・テンプレートを実装した商品化に成功。発売元は、現潟gランスコスモスMIND−SA事業部


1.ビジネスプロセス・エンジニアリングの課題

特に日本においては、ビジネスプロセス(企業の業務手順ならびに商取引手順)の記述に関して、以下が主要課題であると認識され続けてきた。その結果、多くの企業やサプライチェーンのビジネスプロセスの設計や、BPR(Business Process Reengineering)、これらを実装(実業務配置やITアプリケーションの開発適用等)ベースで稼動させるプロジェクト活動等が、充分には効果的、効率的に遂行できないできたのである。

@     ソリューションの実装(業務配置やITの適用の単位)までを一貫して記述できる分類標準が無い

A     ベンチマーキングやソフトウェア開発分野において、ディファクト標準とされるものは全て欧米発である

この内@は日本だけの課題ではなく、例えばオブジェクト指向型の取り組みを展開しつづけているOMG(Object Management Group)などは、一貫してプロセス標準の必要性を主張している。また、APQC(American Productivity and Quality Center)のBusiness Process Classification(標準としてはSQCが運営する国家経営品質賞のプロセス評価基準)なども企業間の相対評価(ベンチマーキング)の視点からの標準となっており、そのままITアプリケーションの実装(コンポーネントシステムの開発や適用)に結びつくものではない。

 [図表1.APQCによるビジネスプロセス分類]


[図表2.APQCによるビジネスプロセス分類例]


  更に、サプライチェーンマネジメントの進展に伴って「企業間」の「接続性」と「相互運用性」が必須要件とされるようになり、この観点から企業のビジネスプロセスを抽象化・再構成したSCORモデルが出現した。これは定義対象範囲を、APQCモデルのような企業中心で業務領域全域から、調達、製造、受注配送というバリューチェーンにフォーカスすることでビジネスプロセスの再構成を容易にしようとしたものである。

 [図表3.SCORモデルとAPQCモデル]


 しかしこのSCORモデルも、サプライチェーンの構成プロセスをベンチマーキングしたりマクロレベルで再構成するための「抽象化された実例集」として年々アップデイトされており、ビジネスプロセス分類の「標準」と位置付けることは難しいことが判ってきた。特に一昨年から昨年にかけての「受注設計生産」プロセスや「リバースロジスティクス」プロセス(当初は対象外としていた)の取り入れから、今年の「エネイブラー」処理プロセス(APQCモデルのサポートプロセスに当たる)の導入やCPFRを前提とした「コラボレーション」プロセス(従って企業間協調プロセスが中心)の導入など、客観性・普遍性を持った「記述標準」として維持運営がなされているとは言えなくなってきている。

更にSCORモデルは、日本への紹介導入時(当時はバージョン2.0)から、以下のような課題が指摘されてきた。(SCORの課題については、「SCMリサーチレビュー」誌2000年冬号「SCORによるSCM革新方法論とビジネスプロセス評価」(梅澤伊憲)を参照)
     第3レベルまでしか(標準)記述されておらず、より具体的なブレークダウンは企業ごと、事業モデルごとのカスタマイズ要件である、とされてきた
     日本的な業務定義や呼称(例えば「かんばん方式」関連等の生産管理用語)が織り込まれていない
     SCORの使用はSCCのメンバーシップが前提となるため、幅広く「標準」適用しようとする場合には適用範囲や方法が課題になる

これらに関しては、SCORモデルの初期の制定や拡充に殆ど関与することが出来なかった日本側の事情が大きいが、SCORモデル自体が未だ以下のフェーズにある発展途上の成果物である事にもよっている。
 ・ 各種の実装局面までの適用事例を生み出す過程である事
     真の「グローバル適用」がこれからなされる事

2.日本発のビジネスプロセス[分類]記述標準の可能性とその目標

 このような米国発のビジネスプロセスモデル若しくは参照モデルの進展とその日本への移入の傍ら、日本においても種々のビジネスプロセスのモデル化およびビジネスプロセス(業務)管理の方法論の研究開発がなされてきた。その一つに吉原賢治先生の多年の日本企業における業務革新と成果を体系化してリポジトリ化されたPDR(PDRに関しては前節参照)がある。一昨年度のIPA助成事業として10業種のテンプレート定義が完了し、延べの最小構成プロセス単位は10,000にも及んでいる。またPDRは、企業運営を「付加価値生成プロセス連鎖」と「PADSC(Plan-Do-See-Check)プロセス運営サイクル」の2つのビューから全体構成する方法論をとっている。従って、SCORモデルのようなサプライチェーンプロセスだけにフォーカスした定義ではなく、APQCの「サポートプロセス」やSCORで検討が始まった「エネイブラー(処理プロセス)」等を内包したものである。(PDRおよびその方法論については、SCMリサーチレビュー1999年夏号「サプライチェーン・ビジネスモデルの展望」(吉原賢治)、同2000年冬号「PDRの自己完結コンセプト」、同「PDRモデルの適用」(同)参照)
 では、このPDRによるビジネスプロセス定義を「ビジネスプロセス分類(識別)標準」に採用できないだろうか?この面から捉えると、PDRはやはり「日本の参照プラクティス事例の日本的な記述」である。確かに、日本人あるいは日本の業界から見るとわかり易く実際的な記述が多い。従って逆に、このままでは世界の企業が参照し適用しようとは考えない可能性が高い。急速にボーダーレス化が進展し、日本企業も国内のビジネス環境だけでは成果を発現できなくなっている現今、「日本人、日本企業にしか解からない標準」は存在できない(へたをすると対外参入規制にもなりかねない)。
 このようなことから、PDRの国際化、ディファクトスタンダード化が必要であり、またその事が世界的なビジネスプロセス分類(識別)標準づくりとしても有効であると考えられる。そのための方策として以下の2点を提案したい。
     PDRをSCOR等のディフアクト標準と整合させて相互運用性を確保する
     これに基づいて多言語版(特に英語版)を作って国内外のイニシャチブ(団体や企業)に発信し、グローバルスタンダードとして発展拡充させる

 また、このイニシャチブおよびその成果物を「SPC(Standard for business Process Classification)」または「SPCI(… and Identification)」と呼びたい。

[図表4.SPCプロジェクト概要]


 SPCは、デジュア標準、業務革新、モデル化イニシャチブ、ネットワーク化コンソーシアム、IT標準化等々の様々なイニシャチブに影響を及ぼし、また、その影響を受けながら発展する事になろう。しかし、それらのイニシャチブを創設したり受け容れたりする土壌は、地域や国、あるいは業界によって異なるのが現実である。従って、どのイニシャチブをディファクトのベースにしていくのが実際的か、また推進スピードを含めた「目標」設定も、地域や国によって異なってくるだろう。

 [図表5.様々なイニシャチブと目標]


 3.SPCの課題

(1)関連するイニシャチブ

 本提案が生まれる背景となったイニシャチブはSPAプロジェクトである。これは、単なるビジネスプロセス記法や分類標準としてではなく、ビジネスプロセス・エンジニアリングとしてのSCORおよびPDRを統合し、統合されたビジネスプロセスモデルおよび属性データを体系化してARIStoolsetTMにリポジトリデータベースとして実装しよう、という試みである。ビジネスプロセスの分析・設計手法と参照データをナレッジ化することにより、当該企業のビジネスプロセスの革新力、環境変化への即応力を高めようとするものである。(SPAプロジェクトについては第6章参照)また、この「ビジネスプロセス・エンジニアリング方法論」+「参照ビジネスプロセス・リファレンスデータ」ベースは、ERP等の統合的なITソリューションのインプリメントと結びついて一貫したトータルシステム再構築を支援するものに統合される可能性もある。

[図表6.二要素の特徴と課題]


 前者(SPA)は、個別ユーザー企業へのビジネスプロセス・エンジニアリングのコンサルテーションであり、後者(SPx)は特定のパッケージソフトウェア製品のビジネスを補完するものである。将来的にはこのような中から、ビジネスプロセス・エンジニアリングの方法論までを含めたディファクトな標準が生まれてくる可能性もあるが、そこに至るまでには、かなりの時間と多くの実例が必要となるだろう。

 (2)推進体制(素案)

 SPCの具体的な推進のためには、幅広いイニシャチブ間の共通認識と中核となる推進組織、更には国際間の協調体制が必要となろう。また、SCORのプロセス記述を標準として扱う事に向けた、SCC(Supply Chain Council)活動の一層のオープン化と貢献が期待される。

 強力で準公的な推進体制の在り方については本論の善くするところではないが、我が国の深く関連しそうな団体・組織、イニシャチブを列挙してみた。

 [図表7.推進体制(素案)]


 20003月末日 梅澤)